修学旅行「出発」






突然だけど。
修学旅行だ。

今日から5泊6日。
みんなと一緒に旅するのだ。
もちろん、担任の銀八先生も。


昨日の放課後。
帰りに国語科準備室に立ち寄った。
銀八先生は、いつもと変わらず机に足を投げ出して、ジャンプを読んでいた。

「明日から修学旅行だね」
「めんどくせーな」

やる気の無い返事。

「先生、イベント嫌いだよね」
「うん、めんどくせーから」

うん、知ってるけど。

なんとなく、明日からを思って浮き足立ってる自分がいて。
だから先生の顔見に来ちゃったんだけれど。
先生のテンションがあまりにいつも通りなので、それ以上言えることもなくなってしまった。
そういうところも先生らしくて好きかな、とか思って納得してしまう私も重症なのだけど。

「でも、まぁ、アレだな。人間前向きに考えねぇとな」

バサッとジャンプを机に置いて、欠伸を一つ。

「仕事だと思うからめんどくせーわけだ。デートだと思っとくことにするわ」

ほとんど独り言みたいにつぶやいて、
「さー職員会議行ってくっかな」と立ち上がる。

「デートって、私と?」
慌てて確認。

「んだよ、他のやつとでいいの?」
「やだ」

自分でも驚くくらい、間髪入れずに声が出た。
これも浮き足立っているせい?
先生も、さすがにちょっと驚いてる。

「何、その、かわいい感じ。誘ってんの?誘ってんのか?俺を」

愛されてんなぁ、おい、とか楽しげに言う先生に、なんか恥ずかしいような腹が立つような。

「一緒にいる時間、あるといいな」

ポンと私の頭に手を乗せてから、先生は準備室を出て行った。

やっぱり先生って、ズルイ。





そんなこんなで、いよいよの、今日。
今私たちは、駅で電車を待ちながら、クラスごとに待機中。
他のクラスは、担任の先生が旅行中の諸注意やら生徒の体調確認やらに余念が無い。

「先生、うちのクラスはなんか無いんですか」

新八君が、一応、といった感じで、ダルそうに壁にもたれて煙草を吹かしている銀八先生に声をかける。

「てめーら、俺に面倒かけんなよー。以上」

一言述べて、また壁にもたれる先生。

あくまでローテンション。
ノー緊張感。


とにもかくにも、私たちの修学旅行は、担任のやる気に関係無く、始まったのだ。