「幸子ー、どこ行ったアルかー」
捜索は、まだ続いていた。
幸子ォォ、と声を上げているのはもう神楽ちゃんだけ。その後ろで銀さんはぐったりと疲れを隠せない様子。もちろんそれは自分にしても同じだ。
「どうしましょうね、銀さん」
「ああ?」
「だって、こう暗くちゃ見つかるものも見つかりませんよ。今日は一旦引き上げて、明日朝から探した方がいいんじゃないですかね」
中心部は、飲み屋街へと繰り出す人でより雑多になる時間。そして町外れは、家々の灯りも消え出し、まばらな街灯にしか頼れなくなる時間。どちらにしても捜索向きの時間ではない。このまま継続するのは決して効率的ではなかった。
「幸子ォ帰ってくるアルー。一人寝の夜は寂しくて体が疼くネー」
「やめて、神楽ちゃん。その呼び方、やめて」
自分の言葉など意にも介さぬ様子で幸子を呼び続ける神楽ちゃん。「神楽ちゃんも、夜中に大声出したら近所迷惑だから……」。そう制止しようとした自分を、彼女の言葉が遮った。
「一人で待つ時間は長くて退屈アル」
こちらを振り返らぬまま、神楽ちゃんはひたすら暗い道の隅々に目を走らせ、一匹の仔猫を探し続ける。
「元気にしてるかもわからないなら尚更ネ。帰ってくるまで、ずっとずっと待ってなきゃならないアル。そんな時間、短い方がいいに決まってるネ」
「神楽ちゃん……」
なんだか、うまく言えないけれど。きっとその『一人で待つ時間』は、神楽ちゃんの中で記憶の何かと重なっていて。だからこそ一人ぼっちのあの少女と、彼女が待つ小さな猫の再会を、心から願っていて。
「幸子ォォォ!てめ焦らしてんじゃねーぞコラァ!」
不意にそれまで黙っていた銀さんが、静かな夜道に響き渡るような大声で叫んだので僕も神楽ちゃんも驚いた。
「ちょ、銀さん?」
「これ以上あのガキ待たせたらシッペな!肉球落ちる勢いでシッペ入れんぞオイ!」
「銀ちゃん」
目を丸くする神楽ちゃんの横を通り過ぎざまに、白い着物の背は一言。
「待ってる奴と同じくらい、待たせてる奴も辛ェもんさ」
その言葉に、神楽ちゃんは返事をしなかった。ただ、小さく笑って、そして。