夏の雨夜
夜もなお冷めない夏の熱が、気だるくこもる部屋の中。 窓の外にまっすぐ降り続く雨が、体にからみつく空気となって、さらに不快を増す。 こんな寝苦しい夜には、昔の夢を見る。 しかも決まって、良い夢ではない。 ただ、どうしようもない現実を繰り返し突き付けられるだけの、浅い眠り。 血と熱気で淀んだ戦場の空気は、雨の熱帯夜の空気と、少しだけ、似ているかもしれない。 目が覚めて、暗闇の中でぼんやりと目に映ったのが万事屋の天井であることに少し安心して。 汗びっしょりの体を起こした。 今夜は寝れそうにねぇな。 台所へ向かい、冷蔵庫からよく冷えたいちご牛乳を取り出す。 そのまま涼を求めて、何となしに玄関を開けた。 雨音と共に流れ込む生ぬるい空気。 中も外も変わんねぇか。 やまない雨筋をぼんやり眺めていると、視界の端に、人影が揺らいだ。 静かで重い雫の響きに混じるのは、硬い足音。 いや、違う。 杖をつく音。 影は万事屋の前で立ち止まり、傘の下からこちらを見上げる。 俺を見つけて微笑むその姿が、街灯に薄く照らされた。 「?」 俺は傘もささずに、引っ掛けた草履で外に飛び出した。 足元で水たまりが豪快にはねる。 「お前、何こんな時間にフラフラしてやがんだ!さらわれてーのか!」 「やっぱり起きてた」 「…はァ?」 「なんだか寝苦しい夜だから。起きているかな、って思ったの」 言いながらは、手を伸ばし、俺の頭上に傘を傾ける。 荒げた声の毒気が一気に抜かれた。 そうか。 コイツには、とっくにバレてんだな。 俺が昔から、こんな夜には眠れねぇことなんか。 「私も眠れないから、一緒にアイス食べてもらおうかと思って」 コンビニの小さな袋を、ほら、と掲げて笑うに、もう言えることなどあるはずもなく。 やっと出てきた一言は、「バカだろ、お前」 後はただ、雨の中、細い体を抱きしめた。 自分の体温にすらイラつくこんな夜でも、どうしてコイツの体温は、こんな安心すんだかな。 「銀時?」 「ほんっっと、バカだね。おめーはよォ」 いや、バカは俺か。 さっきまで暑苦しいだけだった夜も、ジトジト気持ちわりィだけだった雨も、こうも簡単に捨てたもんじゃなく思えちまうんだから。 「じゃ、ありがたく中でアイス食うか」 の手から傘と杖を取り、代わりにの左手に俺の腕をとらせた。 そして2人、万事屋の階段を上る。 「夜中に突然ごめんなさい。アイス食べたら、すぐ帰るから」 今更ながらに慌てたようにが言う。 お前、なんにも考えずにここまで来たろ。 すぐ帰る、とか。 もう遅ぇよ。 帰すわけねーだろ。こんな夜に。 諦めて、朝まで俺の隣にいやがれ。 |