花曇の昼寝






たとえどんなに好き合っていようが、長い時間を共にいようが。
別れというのは、不意にやってくるもので。
そしてあっさりと、心の色んな場所から色んなものを、かっさらっていく。
両手で大事に抱えていたはずのものですら。
別れとは、そんなもの。

あいつが突然消えた部屋と、手の中に握り潰した、一枚きりの手紙のように。




離れようとする人の気配を感じて、とっさに手を伸ばした。
掴んだのは、細く頼りなげで、でも暖かい、手。

「起こしちゃった?」

手首を掴まれたまま、畳に仰向けになった俺を覗き込んでいたのはだった。
「お昼寝中みたいだったから帰ろうと思ったのに」

立ち上がろうとしていたのだろう。膝をついた状態のままで、ごめんね、とは微笑む。

いまいち覚めきらない目を辺りにさまよわせる。

窓の外は春風に流された薄雲が、太陽に暈をかぶせて濁り色。
光を遮られて気だるく映る、万事屋の天井。

そして俺は、空いている方の掌を見た。
今まで握りしめていたはずの手紙は、そこにはなかった。

なんだ。
夢か。

いや、待て。
どっちが?


「寝ぼけてる?」
そんな俺を、不思議そうに見つめる
今目の前にいるこいつの方が、夢じゃね?
目覚めれば、また、俺の前から消えるつもりだろ、コノヤロー。

そうはさせるか。
俺は寝転んだまま、掴んでいたの手を引き寄せた。
バランスを失ったその体を受けとめ、腕の中に抱き寄せる。
さらに足までからませれば、もうこいつを閉じ込めたも同然。

「銀時?どうしたの?」
「うるせー。二度も逃げられてたまるかっつーの」

どっちが夢だろーが現実だろーが。
俺が離さなきゃ、それでいいんだろーが。
これで、解決。
このまま、どこにも行かせねぇ。

「二度も銀時から離れるなんて、私にだって無理だもの」
の唇が、俺の首筋で柔らかく言葉を紡いで。
まるで子守唄のように、安らぐ意識を落としてゆく。


今度こそ、幸せな夢を期待して。
2人して、目覚めがたい花曇の昼寝と決めこもう。