「銀さん。いい加減にしないと、本当に糖尿病になっちゃいますよ」

台所で冷蔵庫を開け、チョコレートといちご牛乳を取り出している銀さんに僕は声をかけた。
銀さんは、「いーの、いーの」と適当な返事。
手は既にいちご牛乳を注ぐためのコップを用意している。
だめだ、こりゃ。
諦めて先に居間に戻る。


「まったく。銀さんて、昔からあんなに甘い物食べてるんですか?さん」
たまたま遊びに来ていたさんに僕は聞いてみる。
ソファで銀さんのジャンプを読んでいたさんは顔を上げて、
「甘い物は好きだったけど、戦中はいつでも買えるわけじゃなかったから。たまにしか食べれなかったんじゃないかな」
と昔を振り返るように視線を空にさまよわせる。

「反動かしらね」
コップを右手にチョコの包みを左手に、居間に入ってきた銀さんを見て、さんが小さく笑った。
「なるほど」

相槌を打ち合う僕とさんを怪訝そうに見比べて。
「なんだよ、おめーら。なんか文句あんのか、コラ」
反動がやって来た甘党侍は、眉間にシワを寄せる。










「お登勢ババアに話つけといたからよ、なんかあったらすぐババアに言えよ」

そのセリフ、もう3回目だな、と僕は思う。
多分僕と同じ事を思っているだろうに、さんは、「うん、わかった」と素直に微笑む。
珍しく万事屋の今回の仕事は長期出張。
と、言っても3日間だけなんだけど。
出勤前に見送りにやって来たさんに銀さんは、やれ鍵は閉めろだの、薬は持ち歩けだの、知らねー奴に着いていくなだの、まるでお父さんだ。
そもそも一緒に住んでいるわけでもないんだけど、何かあったら飛んで行けない距離が気になって仕方ないのだろう。
元来、神楽ちゃんに対してすら意外と心配性で口うるさい銀さん。
さんに対しては、それがさらに増す。

「たった3日だもの。大丈夫よ」
「たった、じゃねーよ。そーゆーこと言ってる奴が一番危ねー」

大体、あん時もたった3日いなかった間だろーが。
背中を向けて、ぼやく銀さん。

ああ、そうか。
さんが襲われた時も、銀さんがいない隙を狙われたんだもんな。
そうして、その後さんがいなくなり、一番心配な時に側で心配できなかった銀さんは、今になってその分を取り戻すかのように過保護だ。

「心配しすぎよね?」
僕にこそっと耳打ちするさんに、
「反動じゃないですか」
と笑い返すと、彼女は「そうかもね」と銀さんの背中を見つめて微笑んだ。

そんな僕らを振り返り、
「なんだよ、おめーら。なんか文句あんのか、コラ」
と、反動がやって来た過保護侍は眉間にシワを寄せる。



そして、出発間際には
「やっぱり、お前も来れば?」
とか言い出して(これも3回目)、
「3日も仕事お休みするわけにいかないもの。いってらっしゃい」
と、笑顔でさんに断られるのだ。





反動