月と桜
街の灯りと月の灯り。 まるで違う二つに照らされた人気の無い丘は、どこまでも静かだった。 短い草の上に寝転んで見上げた夜空には、桜がほころぶ。 時折吹く優しい風が、薄紅の隙間から月を透かす。 昼間、神楽や新八と来た時とは、まるで別の桜のようだ。 青空に伸びた桃色の枝は、柔らかく風に凪ぎ、優しく景色を包んでいた。 今の桜は、静かな存在感で、ただそこに在る。 何かを見守るように。 まっすぐに、揺らぐことない強さで。 こいつって、桜みてェ。 俺は、俺の腕に頭を乗せて桜を見つめるの横顔を見た。 ふわふわ揺れる花びらのように、いつしか消えてしまいそうで。 それでいて、いつも凜と、空を見上げて立っている。 「銀時って、月みたい」 突然が言った。 「はぁ?月?」 「尖ったり、まぁるくなったり、少し隠れてみたり」 「気分屋っつーか、ただのワガママってことだろ、ソレ」 「でも、いつも、危なかしい私の足元を照らしていてくれるもの」 俺は半分体を起こし、寝転んだままのを見下ろした。 俺の左腕の中で、もこちらを見返す。 そして、俺の髪にそっと手を伸ばす。 「綺麗」 月とおんなじ色。 そう言って笑いながら。 月と桜、ね。 「相性いいんじゃね?」 何が?と聞き返すに答える代わりに。 唇を重ねた。 触れたぬくもりを追うように、捕らえるように。深く。 そして、柔らかい髪に顔をうずめる。 「銀時?」 「あー?」 「一緒に桜、見に来れてよかった」 「そーねー」 「銀時?」 「あー?」 「春も、もうすぐ終わるね」 耳元で小さくつぶやいたが、俺の肩に頬を寄せた。 たとえ待ち侘びた春が過ぎようと。 いくつ季節が変わろうと。 お前の足元は、俺が照らしててやるっつーの。 隣で。 ずっと。 「何か言った?」 「なんでもねーよ」 俺はまた草に寝転ぶ。 頭上に桜が揺らめく。月に手を伸ばして。 いつか、必ず言うからよ。 それまで俺の隣で待ってろ、コノヤロー。 春待ち人 END |