雪が降ってきた。 今年初めての雪。 こんな都会の雑多ささえも静かに包む、ひとひらひとひらに、少し見とれた。 あの日も、こんな雪だった。 杖を握る左手を、知らずに触れる。 初めて来た江戸の街は人が多すぎて、逆に孤独が浮き立った。 この街のどこかに、彼がいるかもしれない。 そう思うと、胸が痛んだ。 逃げ出したい。 でも、探したい。 矛盾する気持ちが足を鈍らせる。 そんなことのために、ここに来たわけじゃないのに。 でも、じゃあ、なんのために? ふと顔を上げた先。 見るとは無しに見ていた看板の列の中。 『万事屋銀ちゃん』 つい、歩みを止めた。 まさか、と思い目をそらす。 けれど。 看板の下、落ちてくる雪を見上げる、雪色の髪。 「銀時?」 口が勝手に名前を呼んだ。 もうずっと呼んでいなかった名前は、当たり前のようにすんなりと声になった。 振り返ったその目に捕らえられ、何故呼んでしまったのかと、呼ぶべきではなかったと、悔いてみても、もう遅い。 「?」 けれど呼び返されたその時、気付いてしまった。 心の奥では、こうなる事を望んでいた自分に。 幾度冬を重ねても溶けることなく残り続けていた、この、想いに。 |