11.理由なんて、それで十分
「どうしたんですか?!さん!」 万事屋の戸を乱暴に足で開ける。 その音に出てきた新八が、俺と背中のを見て慌てた声を上げた。 何があったのかと居間から神楽も飛び出してくる。 「新八ィ、布団敷いてくんねーか」 はいっ、と奥に飛んで行く新八。 俺の背中を覗き込む神楽。 は後ろで、ぐったり動かない。 「銀ちゃん、どうしたアル?生きてるカ?風邪引いたカ?」 「死んでねーよ。風邪でもねェけど」 新八が和室に敷いた布団にを寝かせながら答える。 飲んだと言っていた薬が効いてきたのかもしれない。 呼吸は早いが眠っているようだ。 「お医者さん呼んだほういいですか?銀さん」 洗面器に水とタオルを用意しながら新八が聞いてくる。 「いや。薬飲んだみてぇだし、さっきより落ち着いてるし。ちょい様子見るわ」 枕元にあぐらをかき、冷やしたタオルをの額にのせた。 昔、そうしたように。 こいつが傷を負ってから姿を消すまでの間にも、こんな事はよくあった。 包帯がとれて、退院し、リハビリを始めても。 ちょっと無理をすると痛みや熱に襲われるこいつを、何度も枕元で見守った。 他には、何もできなかったから。 後遺症もあるだろうが、精神的なものが大きいかもしれない、と当時医者は言っていた。 体が記憶している痛みや熱が、忘れたと思っても繰り返し繰り返し蘇るのかもしれない、と。 本人の意識とは、まるで無関係に。 それほどの思いを、こいつは味わったんだ。 こんなに元気になったようでも、今だに治り切っちゃいねェってことか。 「銀さん」 「何よ」 後ろに立つ新八に、振り返らずに返事する。 「銀さん、そのほうが似合ってますよ」 「は?」 今度は首だけ振り返った。 少し嬉しそうな表情の新八。 何言ってんの、こいつ。 「いつもさんの事心配で手を出したいのに、我慢してるように見えたんで。そんなん、銀さんらしくないですもん」 こいつは、いつの間にこんな生意気な事言うようになったんだか。 新八のくせに。 「俺がやんなきゃ誰がやんだよ」 つーかやらせねーよ、他の奴になんて。 もうごちゃごちゃ考えるのは、やめだ。 手を伸ばす理由なんて、それで十分。 俺が、護る。 |